without mercy
「また白い服なのか、お前」
「・・・・・・」
「シカトですかー?」
「・・・っ、うるさいな!俺の勝手だろ!」
ムキになっちゃってまぁ。
ま、コジンのジユーだけどさ、と軽いノリで次の言葉を口にする。
「見てるほうは気持ちいいもんじゃないぞ、それ」
そう言って白い白いシャツの胸元にべっとりと付着した紅いモノを指差す。
所々目に染みる白が残っていて、そのコントラストが余計に彼を「不気味なモノ」に仕立てあげていた。
「・・・ほっとけ」
自分の胸元を一瞥してそっぽを向く。
彼は何年経っても「人」を喰う事に慣れていないのだ。
「・・・おまえは、どんなに奴らに紛れようと、人にはなれないんだぞ」
「それくらいっ・・・」
わかってるさ、と今にも消え入りそうな小さな声が聞こえた。
人に、あんなに近い立ち位置で接しているからだ。
愛着が沸いてしまえば、終わりだって事くらい分かっているだろうに。
それでも。
そんなに、人を殺すのが嫌なのか。
彼女は見殺しにしたくせに
「あ゛?」
不機嫌そうな声で我に帰る。
「・・・へ?」
「だから、今何つったかって聞いてんだよ!」
声のトーンに不機嫌さがより一層不覚滲み出ていた。
「いや、何も言ってないぞ」
だが本当に自覚が無い。
ただ何か言いようの無い、鬱々とした、憎しみのような、目の前の彼に対する歪んだ気持ちが強まったような気がした。
「・・・・・・おかしなやつだな。」
それはお前だよ、と返してやると、五月蝿い、と怒鳴って彼は家に帰って行った。
月明かりの下で、真っ白なシャツと真っ赤な血が怖いくらい綺麗に輝いていた。
そう、何も言ってない。思っていない。
何も。