如何して食べてくれないの?と。
その瞳が切実に訴えているようだった。

・・・・・・ごめん」
目の前に差し出された肉片を手には持ったが口に運ぶ気にはなれない。
正直なところ、手に持つ事すら嫌だ。
自分とは違う、けれど外見は瓜二つなモノを「食べる」気にはなれない。
同じ様に腕があって、脚があって、指があって、鼻や口があって瞳がある。
ただ在るだけなら、きっと其れは問題では無いのだろうけれど、あまりにも配置が似ている。むしろ同じ位置に、同じものがあると言って良い。
表情や容姿は違うけれど、まるで鏡と対峙しているかのよう。
中身はさて置き(何せ自分の皮膚を裂いて中を見た事など無い)外見がこれだけ自分と似通っていると、其れを進んで食べるなんて出来ない。
まして、「彼ら」とは共に暮らしているのだ。
笑いあったり、歌ったり、酒を飲んだり、踊ったり。太陽の光の中、月明かりの下で、生きている彼らをいつも見ている。
そんな彼らを、どうして弟は、他の皆は何も躊躇わず何食わぬ顔で食す事が出来るのだろう。
否、自分がおかしいのか。
弟と、他の皆と同じ存在である自分のこの感覚が妙なのだろうか。
生きる為には仕方が無い、と言う。それは「彼ら」だってそうだ。彼らも生きる為に他の生き物を殺す。それにすら軽い抵抗を覚える自分はやはりおかしいのだろうか。

・・・・・・この際狂っていても構わない。

彼らを食べるくらいならば、自分が死んだほうがましだと心の内で誰かが囁く。
けれど自分が死ねば、彼らの身に何が起こるかなんて嫌になる程分かっている。結果的に犠牲が多くなるのはどちらかなんて火を見るより明らかだ。

誰が、自分をこんな存在にしたのだろう。
何故、自分にこんな思考回路を授けたのだろう。
喰わねば生きていけないのなら、何故その事にすら心を痛める自分になってしまったのだろう。

目の前では弟が、おいしいよ?と言って彼らの断片を食べていた。



Either you or I am wrong.
   ―君か僕、どちらかが間違ってる―