例えばもし。
願えば、叶ったのかもしれない。
確立はとてもとても低いけれど。
万が一という事が起こったかもしれない。
けれどそんな賭けに出る勇気は、臆病な自分には無かった。
今ある幸せな日常を壊してまで進展したいと、弱虫な自分は思えなかった。

そう考えたあの日の事を、後悔はしていない。


あれは酷く雨の降る日だった。
何もかもを流しつくしてしまいそうなほどの、雨の日。
聞こえてくるのは、銃声と、そして。
僕は茂みから隠れてそっと覗いていた。
兄弟と、大きな、大切な存在である兄が争う姿を。
はっきりとは聞こえなかったけれど、もめている事は傍目にも明らかだった。

「もう子供でもないし、君の弟でもない」

降りしきる雨の中で嫌にはっきり耳に届いた言葉。
どんな思いで君は、この言葉を。
自分は、とても怖くて口にするなんて出来ない。
あの瞬間君は、無条件で甘えていられるその場所を、永遠に失ったのだ。
そしてそれは、あの人が君の望んだポジションを与えてくれるかどうかなんて分からない、心が凍りつきそうな賭け。
負けたとき、どれほどまでの負債が自分に圧し掛かってくるか、僕は想像して震えた。

僕は兄弟のように強くはなれない。
あの人を失うかもしれない賭けに、手を伸ばす勇気は無い。

けれどそれでよかった。
あの人の弟というポジションは、眩暈がするほど暖かで幸せな場所だった。
これ以上の関係を望む必要は無かった。
だから。

貴方をしませんでした。







2008/02/15