夢を見た。

君が楽しそうに笑っていた。

君の髪の毛と同じくらいキラキラ輝く稲穂の海で。


自分も笑っていた。

麦藁帽子を被った、君の手を握って。

君の瞳と同じくらい透き通った空の下で。


「幸福」の意味なんて知らなかったけれど、日々は満ち足りて全てが新鮮な感動を伴い、何をしても楽しかった。

確かに自分はしあわせだったのだ。

まだはっきりとは言えないけれど、かつてより「幸福」の意味を理解した今ならわかる。


彼の笑顔を見ると、心が暖かくなった。
小さな柔らかい灯がそっと心にともるようだった。
彼の無茶苦茶な言動も、なんだかんだ言いながら楽しいと思っていた。
自分では思い付かない突飛な事柄を、呆れたように聞きながら本当は楽しみにしていた。
彼の手を握ると、それだけで勇気が沸いてくるような気がした。
気弱な自分を無言で励ましてくれているような気がした。

何度傷付こうが、華麗に蘇る不死鳥のような彼は、既に自分の一部だった。



今、生活を送っているのはアメリカさんの家。
かつての彼とよく似た黄金の持ち主。
けれど、違う。
彼では、自分の痛みはやまない。
まるで半身をえぐり取られたような、鋭利でいて緩く疼くこの痛みは消えない。
決して、待遇が悪いわけでは無い。
むしろとても良くして貰っている。

けれど貪欲な自分は、卑怯にも何かが足りないと常に思っている。

否、「何か」ではない。
わかっている。
「彼」が隣に、当たり前のようにいない事が、こんなにも痛いのだ。


その痛みは熱を伴って俺を急かす。


どうしているだろうか。

元気でやっているだろうか。

変わらず、無茶を平気でしているのだろうか。

会いたい。

会いたい、会いたい。

その手を昔のように握って、昔のように黄金色の海で戯れたい。


いつもは心の奥底に閉じ込めているこの思い。
それは自分でも知らないうちに膨れ上がり、破裂寸前だった。


会いたい。

会いたい。


彼の名前を呟くと何かが弾けて、瞳を大きな雫が濡らしたとある日の独りの夕暮れ。


()けて、友よ、秋とはなりました







やまさんに差し上げます!





中原中也/夏過けて、友よ、秋とはなりました
2007/12/02