非常に捏造が濃い設定となっております。
日本×日本です。(双子のようなもの)
それでもよろしい方のみどうぞ。








































貴方は私の分身で、全く同じもので、けれど何処も似ていないという事を理解していた。
私は一つに成りたかったけれど、貴方がそれを望んでいないことも知っていた。
貴方が、遠い西の果ての地に、狂おしいほど焦がれていることも、私はきっと解っていた。

判りたくはなかったけれど。

欺瞞



「また、あのような西洋被れの御屋敷をお建てになるのですか」
私は眼を見て話す事を望んでいるのに、彼はただおろおろと、見てとれるほどあからさまに動揺の色を示しながらひたすら俯き気味に眼を泳がせている。
昔はこうでは無かったのに、と過ぎ去った時が脳裏を過ぎって無性に泣きたくなった。
若しかしたらあの過ぎ去った日々の眼の前の彼の笑顔は哀しい自分の作り出した幻影かもしれなかったが、それでもそれに縋ってなら生きて行けるので夢でも願望でも何等構わなかった。
「・・・御自分を、殺してしまうおつもりですか」
相変わらず返答は無かったが、それは無言の肯定とも取れた。
「どれほど真似たとて、彼になれるはずなど無く、益してあの方々に侵された地に近づく事すら不可能なのですよ」
「・・・そんな事」
解っていますとか細い、吹けば消えてしまいそうな、初めての返答が返ってきた。

解っていますと呟いた彼は、きっと何も判っていない。
殻に閉じこもって傷付くのを厭うて、否、きっとこれ以上傷を追えば壊れてしまうことを無意識のうちに理解しての無我の防衛だろう。

彼を、壊してはいけない。けれど今踏み止まらせなければ、もうどうしようも無くなる事は明らかだ。
例え嫌われても疎まれても、どうにかして止めなければと思った。


「彼の地に、颶風や地震がそう無い事を、よもやお忘れではありませぬよね」
そのような土地の建物が、この地に上手く馴染むとお思いですかと問いつつ、本当に言いたいのはもっと深奥の事柄。建物などどうだって良い。潰れようが欠けようが構わない。
けれど、彼は。
彼が潰れては、欠けてはいけない。

「・・・猿真似など、滑稽なだけではありませぬか」
その猿真似で、文字を作り文化を打ち立ててきた自分が言うのは矛盾していると分かってる。
真似るのが全て悪いとは思わないが、かといって英吉利や亜米利加、かつての西班牙が何をしようとしているか、していたか、明確に眼前に示された今その国々に親しみを持てと言う方が無理な話だ。
少なくとも、自分には。
昔の話で無くとも、亜米利加が私たちに無茶な条約を押し付けてきたのは記憶に新しい出来事ではないか。
それなのに、悪いのは立ち遅れているこの国だと言う人間がいる。
真似て、真似て、そうやって列強と呼ばれる国々に肩を並べようと唱えている人間がいる。
確かに私達は、他のモノを真似るのは上手い。
けれど、真似では追い付きはしても、追い越せないということが分からないのか。
亜流は所詮亜流に過ぎず、一つの独創に勝てないという事を、分からないのか。

「私達は、私達の道を行くべきではありませぬか」
だから、早くあんな奴らの事は忘れてくれとひたすらに願った。
きっと奴らは裏切ると、眼の前の彼の心にしっかりと根を下ろした後にそれでもきっとあっさりと裏切ると、確信めいた予感があった。

けれど、甘い言葉を吹き込まれ完璧な未来を夢に見せられまるでその夢への道の片鱗であるかのような瓦斯燭や電話機などを差し出され、夢幻に酔いしれている彼に自分の言葉が届くことは無かった。

言葉が届かない事実は、あまりに悲しかったけれど、麻痺した心をさほど痛ませることは無かった。
それもまた、哀しかった。



颶風=台風