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目の前には色とりどりの大量のお菓子。
不本意ながらあのバカ弟にレシピを聞いて作ったのもある。味見は勿論してあるから、自分の舌がおかしくなったのではなければ上出来のはずだ。
一応料理は趣味だけれど、お菓子類は別。あまり作ったことが無い。
だからといって失敗だけはしたくなかった。散々格好悪いところを見られているから今更…という気がしないこともないが、だからこそ余計に不様な様をこれ以上見せたくないとも思う。要はプライドの問題だ(それこそ今更な気がするけど)
皿の配置はどうだろう。テーブルのセッティングなんていまいちよく分からない。花とか置いた方がいいのかなんてぐるぐる考えてしまって頭が痛くなった。
つくづく自分にはこんな小綺麗なことは向いていないと思い知らされる。
けれど、だって。
今日から一ヵ月前の、その日。何でもない事のようにあいつは俺に薔薇の花束を渡してくれたんだ。俺は気恥ずかしくて何も準備していないどころか碌にお礼すら言えなかった(いつもの悪い癖だ)
だから、どうしようと、いつも後悔はするけど最近じゃ一番酷いんじゃないかってくらい落ち込んでいたら、聞いたんだ。
弟を尋ねてきていたけど、あのバカはじゃがいもと出掛けていて、すぐ帰ってくるはずだったから(自分にしては珍しく)お茶なんか出してもてなした、日本に。
「もうすぐホワイトデーですね」
「・・・・・・へ?」
日本はお茶と一緒に出したティラミスを見ながら口を開いた。
「何だ、そのホワイトデーって」
私の家のほうの行事なんです、と彼は薄く微笑む。
「私の家では、バレンタインデーは女性が男性にチョコレートをあげる日なんです」
「それは弟が言ってたな・・・」
「そのお返しをするのが、男性から女性に贈り物をするのがホワイトデーなんですよ」
義理チョコなんてものがあるのでお返しが大変です、と彼は笑っていたが正直なところあまり耳に入っていなかった。
バレンタインデーの、お返しをする日。
スペインは、そんな日きっと知らないだろうけど、自己満足かもしれないけど、バレンタインに自分に花束をくれた事が、嬉しかったから。
目の前のお菓子を眺めつつ、今更ながら逃げ出したくなる。
変じゃないよな・・・、なんて思っていたらチャイムが家の中に響いた。
スペインには、14日にウチに来ないか?と精一杯の勇気を振り絞って電話してある。(ちなみに二つ返事で答えが返ってきた)
「ロマーノ?入るでー」
勝手知ったる人の家。足音が近づいてくる。
「テラスに居る」と声を上げたけれど、もしかしなくてもこれって迎えに行ったほうがよかったのか?なんて考えていたらスペインがテラスに顔を出した。
「ええ匂いがしとると思ったら、美味そうやなー!全部、ロマーノが作ったん?」
「お、おう」
よかった。美味しそうに見えたのなら。
「これ、俺が食べてええんよね?」
他に誰が居るんだよ、と可愛くない事を言ってしまった。
「ロマーノの手料理食べるの、久々やなぁ」
そう言って椅子に座るスペインは、何だかいつも以上にへらへらしてる気がする。
「・・・・・・今日が何の日か・・・知ってるのか?」
小声で呟いた言葉はスペインの耳には届かなかったらしく、何か言った?と逆に問いかけられたので、何でもねぇ!いいから食えよ!なんてまた可愛くない事を言ってしまった。もう何度目の後悔だか。
「ロマーノ、腕あげたなぁー。美味いで!」
そう言って笑う顔は、嘘を言っているようには見えなくて、安心した。
「美人で料理が美味い恋人なんて、俺贅沢者やわー」
「なっ!?」
突然の言葉に、二の句が継げない。そんな自分を知ってか知らずか、スペインは次々と自分の思っている事なんかをストレートに口にする。
「ありがとな、ロマーノ」
それを言いたいのは、こっちのほうだって思うけれど、やっぱり満足に言えない。
お礼を、ちゃんと言いたくて。
だからこんなにお菓子も作ったし、日本のとこの風習を使ったりもしたのに。
ここで言えなかったらなんか一生駄目な気がする。
電話したときの勢いはどうした俺!なんて内心で呟いて無理やりなけなしの勇気を奮い立たす。
「お・・・、俺の方こそ・・・」
薔薇、嬉しかったから・・・。
ちょっと小声になってしまったけれど。(しかも俯いてしまった)
ちゃんと伝わったか心配になって顔を上げたら、いつものへらへらした感じじゃなくて、何かこうもっと柔らかい感じ?でスペインは笑っていて、その笑顔がとてもカッコよく見えて(気のせいかもしれないけど、でも)、また顔を上げられなくなってしまった。
「・・・ありがとな、ロマーノ」
そう言って優しく俺の頭を撫でながら、「愛しとるよ」なんて耳元で囁かれて、お礼を言う事で精一杯な自分に返事なんてできるわけ無かった。