郷愁
「お前も俺を置いていくのか」
背中に注がれる視線が痛い。
「置いて行くなどと…」
「なら訂正しよう。お前も俺のもとから離れるのか」
「…」
無言の肯定。
意思をはっきりと口に出す事ができないのは自分の悪い癖だと思う。
「…御免なさい」
彼の目は、見れない。
けれど。
最初から貴方は私の傍には居なかったのに、どうして離れるなんて事ができましょう。
貴方の心の奥底は未だあの年若い彼に囚われたまま。
離れるも何も、歩み寄ろうとしなかったのは誰です。
先に距離を置いたのは貴方の方。
口には決して出さない。
出しても仕方がないことだというのは、十分すぎるほど分かっているから。
さようなら、と小さく告げてその場を後にした。
彼の表情は見えなかった。