Lonesome



一ヶ月。
それが長いか短いかなんて人によると思うけれど。

スペインは所用で出掛けなければならなかった。
仕事内容を、支障が出ない程度に説明してくれた気がしたけど、難しくてよく分からなかった。
だからアイツが今どこに居るかなんて知らない。
「すぐ帰ってくるからなー」って言いながら出て行って、もう一ヵ月だ。
それは他の人にとってみれば確かに「すぐ」なのかも知れない。
けれど自分にはとてもじゃないが、「すぐ」では無かった。
今まで寝ても醒めてもアイツと一緒に暮らしていたから、こうも長い事顔を合わせないとなんだか不安になった。

「・・・怪我とか・・・してないだろうな・・・」

誰に言うでもなく口から落ちた言葉は、独りだけの広い部屋に冷たく響く。
口にして初めて、自分の中に巣食う不安の大きさを実感する。
なんだか無性に居ても立ってもいられなくなって、スペインの部屋へと急いだ。
一ヶ月振りに訪れた其の部屋は、いつもと様子が違う。
一瞬部屋を間違えたかと思ったけれど。

嗚呼、そうか。

愛しいあの人が、居ない。

誰も居ないその見慣れたはずの部屋は、いつもと違う顔を見せていた。
何時も座っている椅子、
読みかけの本を置いてある机、
愛用のペン、
お気に入りの絵、
心地よいソファー、
怖い夢を見た時、一緒に眠ったベッド。
全てのものが、温度を無くしたように静まり返っている。
優しく頭を撫でてくれる、あの暖かい手の温もりがこの部屋には無い。
見ていると安心するあの笑顔がこの部屋には無い。
こんなひねくれた自分を、受け入れてくれるアイツが居ない。


胸が痛くなった。
誰かに会いたくて泣くのは、初めてだった。