久方ぶりに、視線を交えた彼の表情はあまりにも変わり果てていて、
いつも近くに居たはずなのにその変化に気づかなかった自分を不甲斐無かった。
「こんにちは」
と、発せられた声は平素のものだったが、どことなく違和感を拭えない。
表情も笑ってはいたが、どこかおかしい。
こんな、乾いたように笑う子だったろうか。
何もかもを諦めた様な表情をする子だったろうか。
否、違う。
もっと、そうずっと昔は、柔らかく微笑んでいたはずだ。
文字を教えたり、花を眺めたり、その度に彼は少しはにかみながらそれでも可愛らしく笑っていた。
嗚呼いつの間に、この子はこんな愛想笑いを覚えたのだろう。
いつの間に、自分に向ける笑みすらこんな物になってしまったのだろう。
可愛い可愛い弟を、こんな風に変えてしまったのは何だろう。
若しかしたらそれは自分かも知れないと思った。
自分にはそんな気など全く無かったが、やはり人の心というものは複雑なもので。
目の前の彼が全て悪いと言い出す人は、何人も居た。
有りもしない事実を捏造してまで彼を非難した人も居た。
正直、自分だって彼を責めてばかりいた時もあった。
彼が何を感じて、何に傷ついて、何を思っているかなんて考える余裕は有りはしなかった。
少しずつ病んでいくその姿に、気づけなかった。
近くに、居たはずなのに。
近かったのは物理的な距離だけだったと、痛いくらい染みた。
何か言葉をかけようかと悩んだが、敢えて何も口には出さずに何事もない振りをした。
昔のように、また二人静かに茶を飲みながら、笑い会える日が来ればいいのにと切に願った。
そんな日が、仮令夢のまた夢でも構わないから。
いつか現実になるのなら、何年、何万年かけたって構わないから。
もう一度笑ってみせて、あの日の笑顔で
中と日。
日中共同宣言ぐらいの時代でひとつ・・・。
カプではなく、兄と弟という関係が好きです。
弟馬鹿なお兄ちゃんが愛しいです。